トリスタンダクーニャ行きたい:私が紡ぐ貴女の心-私が受け継ぐ、大切なひとつ-六色の虹~七つの種(ラブライブ にこまき うみにこ うみまき)/雨泉洋悠 #ラブライブ #lovelive

   私が紡ぐ貴女の心
              雨泉 洋悠

 貴女の心の響きを伝える為にも、私は言葉を繋ぎます。

 静かにこの空間を満たすその音は、彼女の素直な心を映します。
 それは他ならぬ、彼女にとって唯一人の人、あの人に向けての、彼女の本心。
 どれだけの時間が、あの人の心の、その強さに変わって行ったことでしょう。
 その強さの全てを受け止められるほどには、彼女に与えられた時間は多くない。
 だから私は、彼女にはその時間ばかりを振り返るよりも、もっと今のあの人を大切にして欲しい。
 そう思います。
 窓から差し込む夕陽に照らされて、白と黒の上を舞う彼女の指先、爪の先まで細く整った、その手の動きは、とても綺麗です。
 そう言った事の方が、きっとあの人にとっては嬉しい筈で、その手に、間隔を置いて不規則に落ちる、彼女の滴を私は、今だけは代わりに受け止める権利を、あの人から頂きたいと思うのです。
 隣りに座る彼女から伝わる、その肩の、小さな震え。
 そこにあるのは、彼女の、あの人への、言葉に出来ない思い。
 流れ落ちるその滴すらも美しくとも、今の彼女が流すその滴だけは、あの人に見せたくないと思うのです。
 それを見ることは、他ならぬあの人にとって、きっとどうしようもなく、辛いこと。
 彼女の口から漏れ聞こえてくる言葉が、その事を物語ります。
「……海未、私は……何で、にこちゃんがそんなにも辛かった時に、一緒に……居てあげられなかったのかな……」
 ああ、真姫、そんなにも、貴女の心は、あの人が過ごして来た日々に、心砕かれ、引き裂かれようとも、あの人の代わりに、貴女を引き寄せて、私は言います。
「真姫、その言葉だけは、あの人に伝えてはいけません。どんなにか苦しくとも、貴女の心に留めて下さい。その事に涙する貴女を見て、一番辛い思いをするのは、他ならぬにこです。だから、その思いは、私にだけぶつけて下さい。にこの代わりに、私が貴女の、そのやり場のない思いを、受け止めますから」
 いつの間にか、私の頬も伝っていた、思いの欠片、真姫の、その燃えるような情熱的な紅色に、溶け落ちて、消えて行きます。
 声にならない、彼女の嘆きと滴が、私の胸に、同じく溶け落ちて、消えて行きます。
 これだけはきっと、二人で共に、同じ事に思いをぶつけ合える私だけが、あの人に赦された、彼女への、唯一の権利。
 窓から変わる事無く差し込む夕陽だけが、私と彼女を、あの人の様に、優しく見つめてくれています。

   私が受け継ぐ、大切なひとつ

 私はこの手が欲しかった、あの子と一緒に、一つのものを、作り出す事が出来る手。
 でも、この手はこの子だからこそで、もし私が持っていたとしても、この子の様に、あの子を支える手には、なれなかったかも知れない。
 あの子の事ばかりを考えている私じゃ、やっぱり、皆の為に、一緒に何かを作り出す事は、きっと、出来ないんだ。

 夕陽の色、それは穂乃果の色、橙色に染まる部屋、いつも彼女と座る場所、私の隣には、あの人の姿。
 照らされたその黒髪と、白い頬は、橙の色味を溶かし込んで、憂いの色を映します。
 その黒髪に揺れる赤色が表すのは、その憂いの深さでしょうか。
「海未、真姫の事、支えてやってね」
 その、白と黒に重ねられた手は、真姫が何時も難無く届かせる音に届くこと無く、にこらしい音を、小さく響かせます。
「真姫の手は、大きいな。私なんかじゃ、全然届かない」
 そんな事を呟いていながらも、その頬は嬉しそうに、緩んでいるのが、解ってしまいます。
「にこは本当に、真姫の事ばかりですね」
 その横顔に、微笑みを浮かべて、にこは私の言葉に答えます。
「うん、私には真姫ちゃん以外、考えられないの。海未なら、その気持ち、解ってくれるでしょ?」
 脳裏に浮かぶのは、私の二人の幼馴染。
 その、微笑み。
「……はい」
 にこは、無防備にその名前を呼ぶ時には、今もそう呼んでしまうのですね、真姫の事を。
 あの日を皆で乗り越えた私達、今やっと、こうして過ぎ去って行く日々を、惜しむ事が出来ます。
「にこ、私は一度ぐらいは、にこと真姫と、私の三人で、ここで過ごす時間が欲しかったかなとも、思います」
 にこは、私と真姫が、ここで過ごす時間の中に、加わって来る事は、一度もありませんでした。
 その理由について、少し聞いてみたくなりました。
 にこはその微笑みをこちらに向けると、優しく言葉を紡ぎます。
「うん、私もね、ちょっと考えてみた事もあった。でもね、やっぱり違うの、私はね、この場所にはあの子の音を聴く為だけに来たいの。きっと、私に聴かせてくれるまでの間に、大変な事も、辛い事もあると思う。その時に真姫ちゃんを支えるのは、海未が良いの、私は」
 そう言うと、にこは私の手をとります。
「この手が良いの。私がまだ真姫ちゃんに出会える前から、出会ってからもずっと、あの子が大切にして来た、あの子の心を、支えてくれている、強くて、あの子の為の、暖かな言葉を紡いでくれる、優しい手」
 触れた手から伝わって来る、にこの体温。
 思っていたよりも低くて、それでも、真姫への裏表の無い、慈しみの暖かさ、感じられます。
 握り返そうとすると、その小ささに驚いてしまうぐらいなのに、その手は、私達が出会えるまでの間、ずっと一人で、私達が辿り着くべき場所を、守ってくれていた。
「私の手よりも、にこの手の方が、ずっと強いですよ。私達が今居る場所を、途絶えること無く、ずっと守って来てくれたのは、にこだけです」
 繋がった手に、力を入れると、にこも、握り返してくれます。
「ありがとう、後はもう全部、海未に、皆に任せたからね。あの子はもうきっと、私の事でしか泣かないから、だから、お願いね、海未」
 あの日、尾崎さんに対して誓った思いは、今も変わっていません。
 沈もうとする夕陽の残り香の中、静かに私の肩に乗せられた、にこの特徴的な黒髪が私の胸元へと流れて行きます。
 私は、静かにそこに私の髪を、重ね合わせます。
「はい、にこの思い、全て、受け取りましたから」
 真姫を、奪っていくのは、私ですから。
 そして、にこも。
 この世界で唯一人、真姫がにこの為に、一番大切にしているものを、共に作り上げる時間を、にこの次に、一番長く真姫と過ごす権利を、与えられた、私ですから。

   六色の虹~七つの種

 沈もうとする夕陽の残り香の中、真姫と二人、家路を歩きます。
 珍しく、真姫が繋いだ手を、離しません。
 あの人の事だから、きっと誤解はしないと思いますが、今日の真姫は、あの人には見せられませんね。
「ごめんね、海未。明日にはちゃんと戻しておくから」
 真姫の音楽の才能は、素人目で私が見ても、凄いと思います。
 それでも、時に壁にぶつかり、時に今日の様に、昂り過ぎた感情が、彼女の才能の妨げになる時もあります。
 そんな感情の昂りもまた、真姫のとても魅力的な部分の一つです。
 だから、今日ばかりは、その感情のままに、あの人の事だけを、ただ考える日にさせてあげたいと思います。
「大丈夫ですよ、真姫。明日、完成させましょう。今日は、にこの事だけを考えて、その想いの中で、眠りについて下さい」
 夕陽に照らされたまま、その鮮やかな紅色の髪と同じ色に染まっていくのが解る、真姫の頬。
 そこに再び、清らかな滴が流れ落ちていきます。
「うん、ありがとう。そうする」
 私の方は大丈夫です。
 今日、真姫のにこへの想いを、受け取りましたから、貴女の奏でる音に、最高の言葉を、貴女の想いを綴ります。
 夕陽に染まる帰り道、夕陽の橙色は、穂乃果の色です。
 きっとこれからも、真姫のにこへの想いと同じく、どんなときも、ずっと、私達を照らし続けてくれます。
 だから、大丈夫です。
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僕のぱなにこをモスラの人に捧ぐ:慈愛の瞳、思案の花(ラブライブ 二次創作 短編 ぱなにこ にこまき りんぱな)/雨泉洋悠 #ラブライブ #lovelive

   慈愛の瞳、思案の花
              雨泉 洋悠

 私はきっと、贅沢なんだと思う。

 こんなにも凛ちゃんの事ばかり、考えて、凛ちゃん以外の事が、見えていない自分を、自覚出来ている筈なのに、それでも私は、あの人の、唯一無二でも、居たかった。
 真姫ちゃんの、もう随分と長い時間が経ってしまった、その気持ちを、解っていても、どうしても止められない。
 そんな私の思いは、真姫ちゃんの、その想いとは、絶対に違うもの。
 それでも、真姫ちゃんと同じ様に、あの日からずっと抱いているそれを、きっと私は、上手く説明出来なくて、だから、何も言えなくて、そんな所だけはきっと、あの日から、私は何も変わっていなくて、弱虫で、臆病者な、私のままなんだ。

「花陽、この後、ちょっと部室で待っていてくれる?」
 皆が私の大切な今日をお祝いしてくれた後、皆でお片付けをしている時に、にこちゃんにそんな風に声を掛けられちゃいました。
「へ?うん、大丈夫だよ。あ、でも」
 今日はいつも通りに凛ちゃんと帰るつもりでいたので、にこちゃんの方を振り向きながら、その向こうに見える凛ちゃんの方を思わず見ちゃいます。
 すると、にこちゃんの視線が凛ちゃんの方を向いたかと思うと、その視界の中にこっちを向いて少し微笑む真姫ちゃんが入って来ました。
「凛、今日は花陽まだ用事があるみたいだから、二人で先に帰るわよ」
 真姫ちゃんが、凛ちゃんにそんな風に声を掛けてくれています。
 にこちゃんと、真姫ちゃん、少し視線を合わせただけで、もう気持ちが通じ合っちゃうんです。
「にゃ?そうなの?かよちん?」
 なので、私も凛ちゃんに視線と、やっぱりそれだけじゃなくて、言葉で返します。
「うん、夜にまた、いつも通りにね」
 毎年、凛ちゃんのお家と、私のお家、皆でしてもらうお祝い、またその時に凛ちゃんとは逢えます。
 だから、この後、きっとちょっとの時間になっちゃうけれども、にこちゃんのお誘いに、応えたいんです。
 そんな風に、どうしても、にこちゃんとも、もっと繋がりを持っていたい。
 そんな事を、にこちゃんと真姫ちゃん、二人分かり合った上とは言っても、二人の大事な一緒に居られる時間を貰っちゃった上に、凛ちゃんとのいつもと変わらない時間も約束しておいた上で、思ってしまう私は、やっぱり、贅沢なんです。
「うん、わかったにゃ」
 だから、そんな贅沢な私にも、何時だって最高の笑顔で、元気一杯に答えてくれる凛ちゃんが、私はやっぱり、大好きで、大切で仕方無いんです。

 片付けも終わって、何時もの部室。
 今さっき、凛ちゃんと真姫ちゃんが帰って、にこちゃんと二人きりになりました。
 帰り際、真姫ちゃんの、
「また、後で」
 と言う、にこちゃんへの呟きと、嬉しそうな横顔が、私だけには届いちゃいました。
 にこちゃんと真姫ちゃんの二人の、心の繋がりの深さを感じられて、嬉しいと同時に、ちょっぴり、羨ましいなと思います。
 あの日に初めて知った二人の想いが、今この形に辿り着いているなら、あの日私が真姫ちゃんにした事も、少なからずその手助けになれているのかも知れないと、そんな風に思います。
「さて、花陽、残らせて悪いわね。この後、凛に聞いているけれども、夜には凛とご家族とお祝いなんでしょ?」
 そう言いながら、にこちゃんは何時も持っている鞄の中を、ごそごそやっています。
「うん、凛ちゃんの事は大丈夫。にこちゃんの方こそ、真姫ちゃん大丈夫?」
 解っているけれども、やっぱり聞いちゃいます。
「ああ、大丈夫よ、気にしないで。真姫にはちゃんと全部話してあるから」
 普段皆でいる時には、意見がぶつかりあったり、喧嘩してたり、あまり仲の良い所を表に出さない、にこちゃんと真姫ちゃん。
 でも、そんな所も含めて、きっと普段からお互いに隠し事をすること無く、真正面から本音で話している。
 それは決して、最初からそうだったんじゃなくて、にこちゃんと真姫ちゃんは、二人の時間をしっかりと積み重ねて来たから。
 だからこそ、本音で話せるようになったんだ、と思います。
 それはやっぱり、私には中々出来ない事だから、今も変わらずに、真姫ちゃんの事を、羨ましく思ってしまうんです。
「そっか、良かった」
 私は今も、にこちゃんの前で何時だって、ちゃんと笑えていると、思います。
「ありがとね、花陽。いつもいつも、真姫の事、支えてくれて」
 私はちゃんと、にこちゃんの、そんな感謝の言葉が、嬉しいです。
「ううん、私も凛ちゃんも、真姫ちゃんの事、大切だから、大丈夫だよ」
 その自分の言葉に、嘘偽りが一つもない事を、自分で解っているから、だからこそ、私のこの胸の内にいつも、少しだけ浮かんでしまう靄のような、贅沢な思いは、日々の幸せと、少しの羨ましさの中で、いつの日にかきっと、ちゃんと消えて行ってくれるんだろうと、思うんです。
「うん、解ってる。だからこそ、私は安心して……」
 途切れた言葉の先、そこに、どれだけの真姫ちゃんへの、心配とか、寂しさとか、優しさが詰まっていることか、にこちゃんが言わなくても、私には解ります。
「はい、花陽、これ、プレゼント」
 唐突に、途切れさせた言葉の先で、私の方に差し出されたのは、小さな袋に入った何か。
「えっ?でもさっき、プレゼントもう貰ったよ?」
 そうです、にこちゃんプレゼントって言っているけれども、それはもうさっき、皆からって、貰いました。
 なので、自分の中で、その眼の前に差し出された事実への、反応が追いつきません。
「うん、だからこれは、皆からじゃなくて、私から花陽へのプレゼント」
 そう、つまり、単純に考えて、私の眼の前に差し出されたというこの事実は、本来なら間違いなくそう言う意味な訳で。
「ええっ!」
 それに気づいた時点で、私はそう言われてみれば、本来私だけを今日に部室に残らせた意味なんて、そういう事以外無いはずで、そんなことにすら、思い至らなくなっていました。
「何よ?意外?そんな、今日みたいな日に私だって部活の用事で残れだなんて言わないわよ」
 そうです、そうなんです、何でそんな簡単な事に思い至らなかったのか、自分の中のさっきまで重く漂っていて、今も完全には消えること無く残る靄を恨めしく思い、思わず批難したくなっちゃいました。
「そ、そうだよね。ああ、もう私ったらおバカさんで、さっきまで自分の事ばっかり考えていて、せっかく傍に居て、私へのプレゼントのことを考えてくれていた、にこちゃんの気持ちに対して思い至らなくて。もう、ごめんなさい本当に……」
 申し訳無さで涙が出て来そうで、思わず両手で、自分の顔を覆っちゃいました。
 何でこうなのかな私、大切な先輩の、大好きな先輩の気持ちを、無下にしそうになっちゃって。
 もう花陽は、穴があったら入り込んじゃって、もう一生出てきたくない気分です。
「花陽、そんな事無いわよ」
 ふわっとした、優しくて、軽くて、小さな感触が、私の頭に、降りて来ました。
「ありがとう花陽、私の気持ちまで、最優先に考えてくれて」
 その、真姫ちゃんや凛ちゃんとはまた違った、にこちゃん独特の体温が、不思議と心地よくて、少しずつ私の心の中の申し訳無さも、靄も、軽くなって、飛んで行ってしまうような気がしました。
「花陽、開けてみて」
 そう言って、私へ促しながらも、その手は変わらずに、私の頭に、載せてくれたままでいます。
「うん、開けさせて貰うね」
 にこちゃんのお陰で、もう花陽は落ち着いて、その中身を見る事が出来ます。
 黒一色のその袋の中から出て来たのは、見慣れた三人組がジャケットに描かれた、一枚のCD。
「にこちゃん、これって」
 私はきっと、驚きの表情で、にこちゃんとその三人組を交互に見ていたと思います。
 更には、この部室内で一際大きく飾られた、ジャケットの三人のポスターにも思いが向きます。
「うん、三人が、ファーストライブをやった時、穂乃果達の時よりは、そりゃあ全然多かったけど、今思えば、本当に少ない、それに私も含めて、今彼女たちが受け取る視線とは、全然違う、期待に満ちてはいても、どこか見定めようとするような視線の中で、彼女たちはさ、本当に、精一杯、歌ってた、踊ってた。花陽に見せてあげたかったな、初めてのライブで、正確にこなすことに必死で、今みたいにこなれたパフォーマンスで魅せる姿とは、また違った三人の姿。特に、あんな初々しい、頑張り屋さんなツバサなんて、私でもその時にしか見れてない。それでもね、やっぱりそんな、その時の姿に魅せられたからこそ、私はここまで来られたんだけどね」
 そうなんです、私は彼女たちのファーストライブには行けてなくて、それはファンの間で、伝説とも言われている、幻とも言われているファーストライブで、その時に限定で配られた、とんでもないプレミアが付いてしまっているCDが、今私の手の中にあるんです。
 これは、大変です。
「で、でもにこちゃん。これって、とんでもなく貴重なもので、こんな凄いもの、私なんかが貰って良いの?」
 そうです、これはファーストライブに参加した人だけに、三人が手渡しで配ってくれた、本当に行った人だけが貰えた、大切なものな筈で、にこちゃんだってそんな沢山持っている訳がないんです。
「うん、大丈夫よ。これはね、高いお金で買ったりした訳じゃなくて、その時一緒に行った人にね、いつかあげたいと思った相手にあげろ、って言われたものだから。だからね、たぶん今の私の気持ちを、一番解ってくれていると思う、花陽にあげたいと思ったの」
 にこちゃんが、変わらずに私の頭を撫で続けてくれながら、言葉を続けます。
 私は、そんなにこちゃんの、夕陽に染まるその姿と、優しげな赤色の瞳を見つめながら、その言葉に耳を傾けます。
「私達さ、そんなアライズに、ツバサ達に、勝っちゃったのよね。あんなにも頑張り屋で、あんなにも凄くて、私のこの学校での、二年間のほぼ全てで、神様みたいなもので、そんな彼女達にさ、私も花陽も、皆で一緒に、勝っちゃったのよね」
 私はそんな言葉と、涼しげに窓の外を見つめるにこちゃんの横顔を少しの間見つめた後、視線を三人の姿に戻します。
 そのにこちゃんの呟きの、意味するところの思い、優しく動くにこちゃんの手から伝わって来る、少しの寂しさと切なさ。
 それは確かに、真姫ちゃんには解らないでいて欲しくて、私がやっぱり、にこちゃんの為に、解っていてあげたいことで。
「……うん、私にとっても、皆に出会えるまでの間、ずっと憧れで、一生手の届かない人達だと思っていたのに、にこちゃんと皆と、勝っちゃった」
 ジャケットに映る、三人の姿が滲んで、滴が一つ、二つと、その姿を濡らします。
「うん、私達、勝っちゃった。もうあの頃の私達でも、彼女達でも、無いのよね」
 そんな、寂しさと切なさなんて、きっと、私とにこちゃんだけにしか解らなくて、私はきっと、にこちゃんとだけ解り合っていたくて、こんな風に私が心の靄を表に出す切っ掛けをくれるのは、やっぱりにこちゃん以外では、わたしはもうきっと考えられないんだ。

「さて、花陽。もう一つ、お礼も兼ねて、プレゼントと言うか、何かして欲しい事があれば言いなさいよ」
 にこちゃんに貰った、きっと生涯の宝物の一つになると思うCDを、大事に鞄に入れていると、にこちゃんがそんな事を言って来ます。
「お礼?何の?」
 今度もちょっと、思い当たりません。
「ええとね、あれよ。あの日、私と、何よりも真姫ちゃんを支えてくれた事のお礼よ。私ね、結構あの時に花陽と凛と三人で活動していた時間がね、少しの時間だったけれども、嬉しかったし、楽しかったのよ。だからね、そのお礼を、いつかはしたいなって思っていたの。せっかくだからいましておきたいかなって」
 そう言って照れくさそうに横を向くにこちゃんの横顔には、やっぱりちゃんと真姫ちゃんへの、想いが見えます。
 それがちょっとだけ、さっき晴れたのとは、ちょっと違う感じがする、さっきまで私の心に乗っかっていた靄を、戻ってこさせちゃったりも、しちゃうんです。
「ええと、じゃあね」
 私は、にこちゃんの想いと、真姫ちゃんの想いを見つめながら、それでもその上で、真姫ちゃんがちょっとだけでも羨ましがってくれるような、何かが、ちょっとだけ欲しいかなって、思っちゃいました。
 私は、何も言わずに、にこちゃんの方に手を差し出します。
「ええと、花陽。これで良いの?」
 夕陽に染まりながら、きょとんと、ちょっと戸惑いがちの視線を向けてくる、にこちゃん。
 さっきまでの、凄く先輩で、上級生な雰囲気のにこちゃんじゃない、きっと真姫ちゃんだけがいつもは見れる、にこちゃん。
 にこちゃんの髪を何時も彩っている、二つの赤い花、それがふわふわと可愛らしく揺れています。
「うん、なんかね、にこちゃんの事、一度撫で撫でしてみたかったの」
 そんな、私らしくない言葉、今日この場所でだけ、にこちゃんの魔法にかけられたこの場所でだけ、言っちゃいます。
「にこちゃん」
 名前を呼ぶと、またきょとんとした表情で、そのルビーを一滴垂らしたような、綺麗な瞳で、私を見つめてくれます。
「ずっと頑張ってくれてありがとう。あの日、私と凛ちゃんを誘ってくれて、ありがとう」
 そう言うと、私は初めて、その瞳の色と同じ色へと染まっていくかのような、にこちゃんのほっぺたを、顔を、見る事が出来ました。

「撫で撫でされたの」
 今日の、私達が帰った後の、花陽との事を聞いてみたら、にこちゃんがそんな事を言った。
 しかも、その頬は、にこちゃんの赤色の瞳に合わさるように、少しばかり染まっていて、それは何となく、私の心をモヤモヤとさせる。
「それはどういう経緯で?」
 にこちゃんの部屋、最近は良く入り浸るようになっていて、この部屋に私がいる事も、そんなには違和感は無くなって来ているのではないかなと思う。
 なので、結構この部屋では私は素直になれていると思う。
 つまりは、そう言う様な事も普通に、直球で聞けるようになっている訳で。
「ええと、それはね。説明していおいたとおりに、花陽にプレゼントをあげたの。それでね、何となく、私の方から先に自然と。で、その後にもう一つプレゼントに、何かしてあげるって言ったのに、お返しでされた感じかな?」
 自然とっていうのはつまり、私がこの部屋にいることぐらいには、違和感なくという感じだったと言う事で。
 私でも、そんな事をして貰った事は、殆ど無かった気がする。
 にこちゃんたら、何だか珍しく、ちょっとボーっとして、少し遠くを見るような目で、その時の事を考えているみたいで、話してはくれたけれども、何となくその時の全部は、やっぱり話してくれていないような気もして、珍しく、モヤモヤがおさまらない。
 二つ上の先輩、しかも普段は意識してはいないけれども、部長であるにこちゃんを、自然と撫で撫でしてしまう様な花陽も、大概だなと思うけれども、そんな花陽に、ちょっと悔しいとか、ちょっと対抗しようかなとか、思ってしまう私も、とっくに大分、どうにかなっている。
「真姫ちゃん?」
 無言になった私の方に、意識を戻して、声を掛けて来たにこちゃんに、私はそのまま自然と手を伸ばした。
 手を動かす度に、その特徴的な髪と、その瞳の色と同じ色のリボンが、ぴょこぴょこと揺れる。
 にこちゃんが、微笑みながら、こちらにも手を伸ばしてくる。
「真姫ちゃんにも、撫で撫で」
 にこちゃんたら、私の気持ちを、解っているのかいないのか、凄く嬉しそうな顔で私に撫でられていて、その上で、私の事も撫でてくれていて、何だか変に、愛おしさが込み上げて来て、手を止めた私は、そのまま頭をにこちゃんの手に預けたまま、その胸元に顔を寄せた。
「何か今日の真姫ちゃん、凄く可愛い」
 本当ににこちゃんは、解っているのか、解っていないのか、そんな事を言って、また私の心を、蕩けさせてしまう。
 だから私は、そのまま何も答えないで、背中に回した手に、力を込めた。

「あのね、凛ちゃん。私ね、来月ね、やっぱり、にこちゃんに、あげたいなって、どうしても、思うの」
 お誕生日のパーティーも終わって、かよちんのお部屋で一緒に寝ようとしている時に、かよちんが、意を決した様に、そんな事を言って来た。
 それは凛にとって、全然驚くような話じゃなかった。
「うんうん、それがいいにゃ」
 だから、かよちんの言う事には異論無しなんだ。
 そう答えると、かよちんはまた笑ってくれる。
「ありがとう、凛ちゃん。今日ね、にこちゃんと色々な事話して、物凄く大事な、大切なものを貰ったの。だからね、何か、自分の大切な何かを、お返ししたいなって、思ったの」
 かよちんは本当に、にこちゃんの事が大好きにゃ。
 あの雨の日に、にこちゃんと初めて会った時からずっと、かよちんがにこちゃんを見る目は、実はかよちんが、凛を見る時の目と、ちょっと同じで、絵里ちゃんを見る目とも、ちょっと同じ。
 かよちんと二人で、お布団に入り込むと、今日はかよちんが凛にくっついてくる。
「凛ちゃん、私ね、本当にね、にこちゃんの事、尊敬しているの、憧れてるの。でもね、その事、にこちゃんに少しは伝わっているような気もするし、ちゃんと伝わっていないような気もするの。だからね、ちゃんと伝えようと思っているの」
 かよちんが凛の背中に回した手に、少し力を入れてくる。
 何だか今日のかよちんは、色々な気持ちを持て余している感じがするにゃ。
 こう言う時のかよちんは、いつも以上に可愛い気がするにゃ。
 かよちんの事を、ぎゅーってしてあげる。
「今日のかよちん、何だかいつも以上に可愛いにゃ」
 思っていることが、そのまま口に出てしまったにゃ。
 かよちんの体温が、どんどん上がっているのが解るにゃ、かよちんが凛の言葉に照れているのが、凛の全身で丸分かり。
 そのままで、かよちんが、呟く。
「凛ちゃん、大好き」
 凛、それについては、今までもこれからも、絶対の自信があるよ。
 だからね、凛は何時だって、同じ言葉を返すの。
「かよちん、凛もかよちんの事、大好き」

にこちゃん誕生日記念、2期5話、紅と桜、二人の物語、ここからは構成はフリーダムに。:二人の物語~新しい貴女~(ラブライブ 二次創作 短編 にこまき)/雨泉洋悠 #ラブライブ #lovelive

   二人の物語~新しい貴女~
              雨泉 洋悠

 貴女は私にこれから、どれだけ沢山の、色んな貴女を、見せてくれるのかな。
 そんな貴女に私も、色んな私を見せてあげられているのかな。

 昼間のイベントは、大成功で、凛の可愛さも十分にアピールする事が出来たし、それに、何よりもその、何て言うか。
「どうしたのにこちゃん?」
 昼間のその姿を余り変えずに、いつもと違う姿で私の目の前で揺れる。
「なんでもないわよ」
 それは、ふわふわと、流れ落ちた、彼女の赤髪の房。
 真姫ちゃんは、こう言う時の自分の姿に、自覚はあるのかな。
 何て言うかその、いつもは私の中で、可愛い真姫ちゃん。
 そんな気持ちが出て来ないとおかしいんだけど。
 その赤髪を、昼間の形に結んでいる真姫ちゃんの手は、やっぱりとても綺麗で、私が絶対に届かない鍵盤と鍵盤の間を、当たり前のように駆け抜けられるぐらいには、私の手よりもずっと大きい。
「にこちゃん、なんかいつもよりちょっと顔赤いけど?」
 不意にそんな風にその手で、私の頬に触れてくるものだから、突然過ぎて動けなくなる。
 私の温度が、いつもよりも上がっていることが、真姫ちゃんにはきっとバレてしまう。
「にこちゃん、ほっぺたいつもよりちょっと熱いわね、大丈夫?」
 ううん、大丈夫じゃない、今日の真姫ちゃんには私、大丈夫じゃない。
「うん、真姫ちゃんの手は、いつもと同じで温かいね」
 精一杯の勇気でもって、頬に触れる真姫ちゃんの手に、自分の手を重ねる。
 自分の手が、じわじわと温度を上げていくのが解る。
 真姫ちゃんに、いつも以上に早くなってしまった鼓動、自分の手から伝わっちゃわないかな。
 真姫ちゃんは、いつもの様に嬉しそうに笑ってくれるけれども、その表情と彼女が纏う、少しいつもと違う雰囲気に、言葉を飲まれる。
 こんな真姫ちゃんを見ていると、らしくない自分、本来のらしい自分を、無防備に引き出されてしまいそうになる。
「真姫ちゃん、もう寝よっか」
 何とか引き止める、このままで居ると、私きっと、とんでも無い事をしてしまう。
「うん、今日のにこちゃん、ちょっと熱っぽい感じがするから、大人しく寝ましょう」
 そう言って、顔を近づけて来たかと思うと、私の額に、自分の額を重ねる。
 こんな真姫ちゃん、とても皆に見せられない、それ以上にこんな私、とても皆に見せられない。
 目の前にある、真姫ちゃんの顔は優しくて、それでもやっぱり今日の真姫ちゃんは、いつも以上に凛々しかった。
 いつもの様に、二人で布団の中に潜り込むと、真姫ちゃんは直ぐに目を閉じる。
「おやすみなさい、にこちゃん」
 いつもと違う、その赤髪の房が、私の眼の前を、流れ落ちる様に舞う。
 その向こう側に見える、いつもの真姫ちゃんの顔。
 いつもと同じな筈なのに、少しいつもと違う、凛々しく見えてしまう、真姫ちゃんの横顔。
 同時に伝わって来る、彼女の香り。
 ああ、良いな、こんな、いつもと少し違う真姫ちゃんでも、いつもと変わらない、私と同じ香りがする。
 それが何だか、とても嬉しかった。
「ふふっ」
 思わず漏れた声に、真姫ちゃんが目を開けて、こちらを向いて微笑む。
「どうしたの?思い出し笑い?」
 そう言って、私を見つめる瞳が、向けてくれる深い優しさ。
 ああ、もう、ママと一緒に寝ている時みたい。
 こんないつもと違う、格好良い真姫ちゃんに見つめられていると、らしくない私を、見せてしまう。
「あのね、真姫ちゃん。お願いしても良い?」
 今の私、真姫ちゃんの瞳には、どう映っているのかな。
「うん?なあに?」
 真姫ちゃんが、私と二人だけの時にだけ見せてくれる、優しい笑顔を向けてくれる。
 ああ、今日の私のせいで、普段の二人の立場まで影響受けちゃったら、どうしようか。
「あのね、真姫ちゃんに、もっとくっつきたい」
 もう駄目、今しか言えない事、言っちゃった。
 あ、久々に暗がりの中で、真姫ちゃんの顔が赤くなっていくのが、解る。
「にこちゃん……本当に今日のにこちゃんはもう……」
 天井の方を向いて、目を瞑ると、そんな風に、口元を抑えながら、何かを呟いている。
 何だろ、とにかく喜んで貰えている感は伝わる。
「ダメ?」
 やっぱりこう言う時はいつもの如く、追い込んでみるのが良いかな。
 真姫ちゃんは、私の言葉に、天上を向いたまま、大きく首を振る。
「ダメなわけ、無いじゃないの」
 そう言うと真姫ちゃんは、私の顔を、体ごと胸元まで引き寄せてくれる。
 いつもと同じく、私と同じ匂いがする。
 伝わって来る真姫ちゃんの音、ああそっか真姫ちゃんも、今日もドキドキしてくれてたんだ。
 嬉しくなって、ママと寝る時みたいに、真姫ちゃんの身体にしがみついた。
「ありがと、真姫ちゃん」
 私の今の凄く嬉しい気持ち、真姫ちゃんに伝わったかな。
 真姫ちゃんの体温、私よりも高いから、暖かい。
 私は体温低いから、真姫ちゃんの体温奪っちゃうばっかりで、何だか申し訳ないな。
「にこちゃん、明日もまた、一緒に頑張ろうね」
 真姫ちゃん、私の事を抱き締めてくれた。
「うん、また明日。お休みなさい」
 何だか、いつも以上に安心出来てしまって、今日は直ぐに眠れそう。
「お休みなさい、甘えん坊なにこちゃん」
 やっぱり今日みたいな私は、真姫ちゃん以外には、とても見せられない。

次回

新しい

2期4話、紅と桜、二人の物語、最終盤の空白二つに、いつの日にか何らかの形で、何らかの描写が追加されます:二人の物語~世界で一番哀しい音楽-そして愛になる~(ラブライブ 二次創作 短編 にこまき)/雨泉洋悠 #ラブライブ #lovelive

   二人の物語~世界で一番哀しい音楽~
              雨泉 洋悠

 それはとても、静かで、優しくて、愛しい音。

 にこちゃんたら、私にも何も言わないで、練習を休むとか言い出して。
 私に何も言ってくれないのは、寂しいけれども、きっと何か理由がある筈だから、珍しく言ってくれるまで待っていようと思ったのに、皆がにこちゃんの後をつけようなんてするから、結局着いて来ちゃった。
 にこちゃんは、ラブライブ予選のあの日から、ちょっと寂しそうで、ちょっと変で、その最たるものが、今日の行動だった。
 だから本当は、探っちゃいけないような、気がしている。
 それでも、皆がにこちゃんの事を知りたいと後をつけるのを止める事も出来無くて、流されるままに着いて行くしか出来なくて、いまにこちゃんのいつもと違う、見た事無い表情を見て、自分の胸の奥がざわざわするのを、押さえつける事が出来ないでいる。
 私は結局、にこちゃんの事を、知りたいと、思ってしまっている。
 にこちゃんたら、私でも見た事無いような、優しい顔で買い物していて、それはつまり、手料理を作ってあげたい相手が、にこちゃんにとってとても大切な人だと言う事を、示しているような気がして、自分の胸に沸き上がってくる、暗い気持ちを、どうしたら良いのか、解らなくて、苦しくて、寂しくて、少しだけ、痛い。
 こんな暗い気持ちを、にこちゃんに対して持っている事、にこちゃんには、本当は知られたくない。
 でも、本当は、ずっと不安で、時々、今日みたいに、にこちゃんが何も言ってくれない時は、にこちゃんに、ここから先は入って来ないで、と言われている様な気がしたりもして、怖くなる。

 私はにこちゃんに、どこまで赦されているの?
 私はにこちゃんの、どこまで踏み込んでも良いの?

 凛の言う通り、にこちゃんだって、私に意地っ張りだなんて言われたく無いかも知れない。
 私の方こそ、にこちゃんに相談したのなんて、あの時のたった一度だけで、こないだの時も、その前の合宿の時も、意地張ってる私に、にこちゃんの方が手を差し伸べてくれただけで、その前からも多分ずっと、にこちゃんは、私の意地っ張りな部分も、優しく包んで、私にそっと手を差し伸べて、大切にして来てくれた。
 だから私は、もっと、私の方からも、にこちゃんの事を、大切にしたい。
 あの日の夜、今居るこの場所で、少しだけ我儘言ってくれた、にこちゃん。
 私は、もっと、にこちゃんの為に、何かをしてあげたい。
 あの日とあの日の夜に、少しだけ見えた、にこちゃんの本当の姿を、私はもっと、ちゃんと知りたい。

 って、思っている傍から、やっぱり、にこちゃんはちゃんと、いつも通りのにこちゃんでもあって、これはもう、徹底的に、問い質すべきなのかも知れない。

 でも、それでもにこちゃんは、私達から目を逸らして、何も言ってくれなくて、私達も結局、それ以上何も言えなくなってしまった。
 にこちゃんはやっぱり、意地っ張りだ。

 また、あの日の夜と同じ場所。
 希が話してくれた、私が知らない、一年生の時のにこちゃん。
 にこちゃんはプライドが高くて、意地っ張りで、自分の妹さんや弟さんにも、ずっとスーパーアイドルだって、言い続けていた。
 そう思っていたけれども、花陽は、私が絶対に自分一人では辿り着けない答えを、静かに教えてくれる。

 にこちゃんはアイドルが大好きで、本当にアイドルで居たかった。

 それは、私達の中で唯一人、唯一、にこちゃんと同じ気持をずっと持っていた、同じ様にずっとアイドルに憧れていた花陽だからこそ、辿り着く事が出来た、にこちゃんの心の真実。
 希に加えて、絵里も話してくれる、一年生の時のにこちゃん。

 一人になっても、頑張り続けた、にこちゃん。
 一人になっても、ずっとあの部室を守り続けてくれていた、にこちゃん。
 何があっても諦めなくて、アイドルで居続けようとした、にこちゃん。
 あの綺麗な紅色の瞳で、強い眼差しでずっと、決して負けずに、その先を見つめ続けていた、にこちゃん。

 やっぱり私はまだ、にこちゃんの心の奥に踏み込む事は、赦されてなくて、私達はにこちゃんの心に、無理矢理に土足で踏み込んでしまったのかも知れない。
 それでも、穂乃果が言ってくれる。
 私達が、にこちゃんの為に、してあげられる事。

 希と絵里が、考えて、ことりと皆で、準備した、にこちゃんの為の、可愛い衣装。
 皆で準備した、にこちゃんの為だけのステージ。
 海未と二人で、海未がにこちゃんの為に、作った歌詞と、私がにこちゃんの為に、作った曲。

 にこちゃんが一人で歌う、最後の曲。
 私が作った、にこちゃんの為の、世界で一番哀しい音楽。
 もう、この曲を、にこちゃんが一人で歌う事は無いの。
 だからもう、これからはこの曲も、世界で一番哀しい音楽では無いの。
 これからはもう、この曲は皆で歌う、にこちゃんが合宿の夜に教えてくれた、にこちゃんの為だけではない、皆の音楽。

 こころとここあと虎太郎が、嬉しそうに笑って、拍手してくれている。
 私が今まで、世界で一番、アイドルとしての私を見せて上げたかった、でもずっと見せて上げる事が出来なかった、大切な子達。
 私が、穂乃果に、ミューズの皆に、何よりも真姫ちゃんに出会えるまでの間、ずっと支え続けて来てくれた。
 結果的に、私の望む形になったのかな。
 まったくね、穂乃果はいつだって、私の大切な場所に土足で、無遠慮に踏み込んでくる。
 それが、私を、どれだけ傷付けて、どれだけ苦しめて、そして、どれだけ救ってくれたか、貴女はきっと、解らないわね。
 貴女には、ずっと、そのままで、私は居て欲しい。
 それと、まったく、何て顔してるのよ。
「真姫」
 そんな寂しそうな、申し訳無さそうな、泣きそうな顔で、私を見て、大丈夫だよ、私は今、凄く嬉しいよ。
 まだ皆も居るから、真姫ちゃんも部活モードで居てよ。
「にこちゃん」
 微かに揺れている、真姫ちゃんの、高貴な瞳。
 まだ泣かないで、真姫ちゃん、今泣かれたら、私が持たないから。
「ありがとう、真姫、みんな」
 そう言って、こころとここあと虎太郎の、三人の方を向く。
 これ以上、真姫ちゃんの瞳を見ていると、多分止められないから。
「真姫ちゃん、今日、家に泊まりに来て」
 背中越しに、真姫ちゃんにだけ、聞こえる声。
「……うん」
 その返事を背中に聞きながら、私は大切なこころとここあと虎太郎の下へ、足を踏み出した。



   二人の物語~そして愛になる~

 その場所に踏み込む者、しかと覚悟せよ。

 こころとここあと虎太郎、そして、真姫ちゃん。
 五人で、家路を急ぐ。
 私の、大切な妹弟と、大切な人。
 三人は、少し前を楽しそうに歩いていて、私は真姫ちゃんと二人で、何も話さないままに、オレンジの光が照らす中を歩いている。
 いつもの様に、オレンジの光りに照らされた真姫ちゃんの赤髪の房は、とても綺麗で、真姫ちゃんの歩調に合わせて、ふわふわ揺れるその姿が、とても愛らしい。
 やっぱりその房は、真姫ちゃんのとても可愛らしい部分の一つで、本当はずっと触っていたいくらいに、愛おしい。
 時折その赤髪の房を弄る、細くて、長い指先、この指先が、今日私が一人で歌う最後の曲を作ってくれた。
 これからは皆で歌う曲、ちゃんと真姫ちゃんは、皆で歌う曲としても、作ってくれた。
 私にとって、真姫ちゃんの手は、奇跡のような、魔法のような、そんな手。
 ことりの手も、海未の手も、大切で、大好きだけど、真姫ちゃんの手は、やっぱり別格で、本当は私は、そんな真姫ちゃんの手にも、ずっと触れていたい。
 そんな目でちらちら見ているのを、真姫ちゃんに気付かれていたみたいで、真姫ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも、意を決したように、私の手に、もう片方の手を重ねてくれた。
 私よりも、体温が高くて、その普段は隠している、情熱的な心の温度すら、伝えてくれる様な、暖かさ。
「あーお姉ちゃん、手繋いでるー」
 ここあが目敏く気付く。
 すかさず、真姫ちゃんがびくっとして、手を離そうとするのを全力で繋ぎ止める。
 離してなるものですか。
「に、にこちゃん」
 真姫ちゃん、いつもの様にびっくりしている。
 うん、こう言う時はいつもの様に畳み掛けるに限るわね。
「そうよ、ここあ。私と真姫ちゃんはミューズの中でも、一番の仲良しだから手を繋ぐのよ」
 真姫ちゃんの体温が、更に上がっていってるのが、繋いだ手から伝わる。
「うええ」
 そんな呟きを残して、赤髪の房を弄りながら、恥ずかしそうに俯いちゃう、真姫ちゃん。
 うん、良かった、私まだまだ、真姫ちゃんに対して、主導権握れるみたい。
「ずるーい、じゃあここあもお姉ちゃんと繋ぐー」
 そう言って、空いている方の腕に自分の腕を絡めてくっついてくる、ここあ。
「じゃあ、私と虎太郎は、真姫さんと繋ぎます」
 そう言って、二人で真姫ちゃんに対して手を伸ばす、こころと虎太郎。
「マッキー」
 虎太郎は、マッキーと呼ぶ事にしたみたい。
 そのうち私も、呼ぶ事もあるのかな。
「うええ、よ、よろしくお願いします」
 真姫ちゃんたら、普段子供の扱いに慣れている風なのに、今日は妙に畏まっちゃって。
 真姫ちゃんが、赤髪の房を弄っていた方の手を、二人の差し出した手に重ねる。
 真姫ちゃん、ちょっと感心したような顔をしている。
「どうしたの?真姫ちゃん」
 こころも虎太郎も、不思議そうな表情を浮かべる。
「どうしたんですか?真姫さん?」
「マッキー?」
 真姫ちゃんは、頬を綻ばせながら答える。
「こころちゃんも、虎太郎くんも、にこちゃんと同じ感触と、体温ね」
 その時の、真姫ちゃんの、オレンジ色に照らされた優しげなほほ笑みと、その言葉を聞いて、少し驚いた表情の後に、ちょっと照れた表情で笑う、こころと虎太郎の嬉しそうな笑顔を、私はきっと、永遠に忘れられない。

「こころ、ここあ、虎太郎、真姫ちゃん。今夜は何食べたい?」
 あの日と同じスーパー、こころちゃん達、三人だけでなく、私の事も一緒に呼んでくれる、にこちゃん。
「今日は真姫さんがお客様だから、真姫さんの好きなものが良いです」
 そんな事を言ってくれる、こころちゃん。
 繋いだままの手、にこちゃんと同じ手。
「さんせーい」
 同意してくれる、ここあちゃん。
「マッキー」
 いつの間にか、今まで聞いた事ない私に対する呼び名が定着していた、虎太郎くん。
 今のは同意の意思表示らしい。
 こころちゃん達、三人の気遣いが、嬉しくて、ちょっとこそばゆい。
 私は少し恥ずかしくて、にこちゃんからちょっと視線を逸らしてから、呟く事にした。
「……トマト」
 視界の端の、にこちゃんの顔が、嬉しそうに微笑む。
「うん、解った。真姫ちゃん、トマト好きだもんね」
 ああそう言えば、にこちゃん私がトマト好きな事、何で知っていたの?
 私、自己紹介文を書く前に、そんな話した事あったかな。

 五人で晩御飯を食べて、一緒にテレビを見て、皆でトランプをしたりして遊んでいると、三人が遊び疲れて寝てしまって、にこちゃんと一緒に三人を寝かしつけていると、何だか自分にも妹弟が出来たみたいで、不思議な感じだった。
「ママにも真姫ちゃんをそのうち会わせたいけれども、ひとまずはこころ、ここあ、虎太郎と仲良くなってくれてよかった」
 そう言って、こころちゃん達、三人を見つめるにこちゃんの横顔が、月明かりに照らされて、その白さがより一層映えていた。
「私も、にこちゃんのママに、会ってみたい。今日は、何だか、にこちゃんが一気に四人に増えたみたいで、嬉しかった」
 そう言って、微笑みかけたら、にこちゃんはいつもの様に、恥ずかしそうに、笑ってくれた。

 私の部屋、私の城、今まで誰も、自分から立ち入らせる事は無かった、私の心。

 真姫ちゃんを、私の部屋に連れ入れる、こないだ一度入ったって言っていたから、もう隠すものも何もない、真っ更な、私。
「にこちゃん、電気、着けないの?」
 入口で、真っ暗なままの部屋に、少し戸惑っている、真姫ちゃんの不安気な声が、背中に聞こえる。
「うん」
 そのまま、私だけ、部屋の奥まで、進み入る。
 真姫ちゃんは、それきり、言葉も無く、私の言葉を待ってくれている。
 ただただ、感じる、怖さ。
 今日どれだけ、嬉しい事があっても、あの日あれだけ、真姫ちゃんが嬉しい事をしてくれていても、どれだけ、嬉しかった日々が降り積もった花びらが、私の深淵を埋め尽くしてくれていても、出来る事なら、永遠に、真姫ちゃんに、知らないままでいて欲しかった、私の中の真実。
 自分の意志とは無関係に、震える身体を無理矢理に押さえつけながら、最後に一呼吸置いて、月の灯すら雲に隠された瞬間に、私は意を決した。

「真姫ちゃん、これが私だよ、これが本当の、矢澤にこ」
 にこちゃんの言葉、微かに震えている。
 その背中は、私がいつも感じているような、部長としての強さとか格好良さとか、優しさとか、解りやすくは感じられなくて。
 一回りも二回りも小さく感じて、同じく私が、いつもにこちゃんに感じている、可愛さとか綺麗さとか、小ささばかりを強く感じさせて、その寂しさが、胸を打った。
「見栄っ張りで、意地っ張りで、妹弟の前で皆の事を、バックダンサー扱いする様な、その癖、学校では偉そうに部長面して、笑っちゃうよね」
 静かに、ゆっくりと。
「格好悪くて、底意地が悪い、酷い奴よね、私」
 彼女が、一人で歩いていた距離を、一気に縮める様に。
「本当に、どうしようもない私で、真姫ちゃんに大切に想って貰う権利なんて、私には無いの」
 月明かりが、再び彼女を照らす様に、静かに、優しく。
「本当に何も無いの、私がずっと貫き通せた私なんて、ただアイドルが好きなだけの私だけ。そんな……」
 ただ、彼女の背中から、月と同じ様に、自らの手で、包み抱いた。
「違うよにこちゃん、もう解っているよ。皆も私も、ちゃんと、解っているよ」
 貫き通す事でしか、自分を、妹弟を、家族を守れなかった、そんな優しすぎる、小さなお姉さん。
 にこちゃんの、私があげた香りと、にこちゃんのいつもの髪の香りに包まれながら、その背中が滴で濡れていくのと同時に、私の彼女に回した手も、静かに濡れていった。

 真姫ちゃんと二人、いつもの場所に座る。
 私があげた、真姫ちゃんの香りも、真姫ちゃんの髪の香りも、今日も同じ。
 暗がりの中でも、真姫ちゃんの顔の綺麗さは、尚引き立っていて、滴に濡れたその瞳と、繋いだ両手の温もりとも合わさって、ああ、やっぱりこの子が、私にとっての、ある意味での、全てなんだ、と思う。
「真姫ちゃん」
 名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑んでくれる真姫ちゃん。
 今でないと、きっとまた言えなくなる。
 多分それは、きっと今なんだ。
「真姫ちゃん、私もしかしたらもう二度と言えないかも知れない、もしかしたら間逆かも知れない。それでも、今しか、剥き出しの私を晒している今だからこそ言えるのかも知れない」
 真姫ちゃんは、ちょっと不思議そうな顔。
 ああ、やっぱり真姫ちゃんは、こんなにも綺麗で、美人さんで、普段は格好良い時もあるのに、なのに、どうしたって、どうしようもないぐらいに、可愛いの。
「好きよ、真姫ちゃん。私矢澤にこは、西木野真姫、真姫ちゃんを大好き。あの日からずっと、きっと、これからもずっと」
 そして、戻る月明かりは、彼女の頬を照らす。
 流れ落ちる滴をも、その明かりで照らしながら。
「真姫ちゃん?」
 その滴は、止め処なく溢れ始めて、惚けたままのその美しさのみを湛えた、真姫ちゃんの顔を、絶え間なく流れ落ちていく。
「真姫ちゃん、大丈夫?」
 そんな筈はないと心の底で想っていても、沸き上がってくる微かな不安。
「うっ……ふっ、ひっ」
 声を上げて泣き始める真姫ちゃん、期待通りである筈と望んでいても、堪え切れない焦燥感。
「ごめんね、真姫ちゃん。びっくりさせたかな。あの時だけだもんね、私がこんな事言ったの。でもね、だからこそね、ちゃんと伝えたかったの、たった一度だけになったとしても、ならなかったとしても、伝えたかったの」
 泣きながら、顔を横に振る真姫ちゃん。
「ふっ、ちが、ひっ、違うの、にこちゃん、ふっ、あの日からずっと言ってくれなかったから、私、多分本当はずっと不安で、ひっ、唯の、仲が良いだけの後輩なのかなって、そんな事無いって思っていても、時々、ひっ、凄く、不安だったから、嬉しいの、本当に、嬉しいの」
 ああ、ダメだなあ私、先輩失格。
 こんなにも、真姫ちゃんを、大好きな後輩を、大切な子を、ずっと不安にさせていたんだ。
 私、結局はやっぱり、甘えていたんだ、ずっと、真姫ちゃんに。
「私だって、私は西木野真姫は、矢澤にこが、にこちゃんが好き、大好き。あの日に言った通り、出会った時からずっと、これからもずっとなの」
 少しだけその滴を留めて、高貴な瞳を私に向けて、真姫ちゃんは言ってくれた。
 だから私は、もう、きっと、二度と止まれない、止まれなくなった。
「にこちゃ……ふっ」
 重なり合うお互いの唇が、この部屋に満ちていた筈の、全ての音を、遠くへと消し去った。
 真姫ちゃんの香りと、真姫ちゃんの匂いの中で。

 

 にこちゃんが、その小さな手で、私の片方の手をその胸元に包み込んでくれている。
「真姫ちゃん、私ね、真姫ちゃんのこの綺麗な手が大好き。ずっとねこうやって抱きしめたまま寝たいと思ってたの」
 そこに、自分のもう片方の手を重ねる。
「にこちゃん、私だってね、にこちゃんのこのちっちゃな手が大好き。いつも私が食べたいものを作ってくれるこの手が大好き」
 そう言って、にこちゃんの胸元に顔を寄せる。
 香りだけでなく、感じ取れる、にこちゃんの匂い。
 あの日から、一緒に寝る時にはずっとさせて貰っている事だけど、今日はちょっとだけ違う。
 そのまま、にこちゃんの小さな手に唇を寄せた。

 

 そして、加速度を増すほどに、その密度を増していく。

次回

新しい

ほぼ半年ぶりのにこまき、紅と桜、二人の物語(=゚ω゚):二人の物語~遠く響く、君の音~(ラブライブ 二次創作 短編 にこまき)/雨泉洋悠 #ラブライブ #lovelive

   二人の物語~遠く響く、君の音~
              雨泉 洋悠

 その夢は、私にとって、とても遠くて、絶望的で、目指すことすら、叶わないぐらいに、遥かな先にある、違う世界の物語。

 その音楽は、私にとって、遠くて、とても遠くて、きっともう永遠に、手が届く事は無い、遥か遠くに、聴こえる音楽。

 あの音楽は、何だったかな。
 いつの日だったか、聴いた様な気がするのだけれども、いつ聴いたのか、まるで覚えていない。
 なのに、いつとはなしに、不意に心の内に、響いて来る。
 そして私は、堪えられないぐらいに、その音に、胸を締め付けられる。

 真姫ちゃんが、珍しく、花陽と凛以外の子と、話してる。
 花陽と凛が、嬉しそうにしている。
 二人の言葉で、照れてそっぽを向く真姫ちゃんが、とてもらしくて、愛らしいと思う。
 こう言う時は本当、どうしたって、歳の差が良い意味で意識されて、先輩として、後輩が可愛い、と思う気持ちに、なってしまう。
 それはもちろん、今も凛と花陽の喜びようも含めて、真姫ちゃんだけに抱いている気持ちとは、ちょっと違って、三人で居る姿が、可愛くて、真姫ちゃんだけでなく、三人共を、こころ、ここあ、虎太郎みたいに、頭を撫でてあげたり、抱きしめてあげたりしたいなと、思ってしまう。
 先輩禁止の我が部だから、表立ってあんまりそう言う事は、出来ないんだけれども。
 絵里の決めた先輩禁止、とても素敵だと思っているし、もちろん嬉しい事も多いんだけれども、二つ歳下の後輩が出来た、その事実への喜びを、噛み締める機会を、もう少しだけ欲しいかなと、贅沢な事を、考えたりも、してしまう。
 真姫ちゃんの事だから、そんな気持ちを今みたいな時に単純に伝えても、素直に可愛がらせてくれないだろうけれども。
 私にだけ見せてくれたり、皆の前でも時折見せる、真姫ちゃんの持つ歳相応の幼さを、とても愛おしいと思う。
 それでもね真姫ちゃん、たまには表立って面と向かって後輩として可愛がりたい時もあるんだよ。

 イライラするの、ムカムカするの。
 何でそんなに嬉しそうなの。
 どうして私でも見た事無いような、そんな目で見ているの。
 どうしてそんなに、私が知らない様な、嬉しそうな顔をしているの。
 さっきなんて、私の声なんてまるで聞こえていない感じで走って行っちゃうし。
 普段は、にこちゃんに対して、本気でこんな気持になったりしない。
 にこちゃんが甘えさせてくれるから、素直じゃない自分を思いっきり出したりもするけれども、こんな嫌な気分に何て絶対にならない。
 なのに、今日のにこちゃんは酷い、そうだにこちゃんが悪い、にこちゃんのせいで私はこんな気持にさせられているの。
 にこちゃんたら、A-RISEに花を送っていたなんて、私は貰った事無いのに、一体どういう事なのよ、にこちゃん。
 もう、今度は小悪魔なんて言われて喜んでいるし。
 にこちゃんも、A-RISEの人達もおかしい。
 にこちゃんは小悪魔なんかじゃないもの、天使だもの。
 本当にもう、何だか呆れてきちゃった。
 にこちゃんたら、A-RISEの方ばっかり見て全然こっち見てくれないし。
 にこちゃんたら、もう知らないんだから。

 あの日以来、真姫ちゃんがずっと、不機嫌なのを感じる。
 表立っては別に、怒っている感じはしないんだけれども、ふとした拍子に、言葉の節々や態度に感じる。
 二人で帰っている時にも、そのまま真姫ちゃんの家にお邪魔したりした時にも、何かにつけて無言になったり、そっぽを向いちゃったり、私に何かをさせたそうだったり、何だか前以上に、真姫ちゃんたら何だかある意味分かり難くなっちゃって。
 だって、しょうがないじゃない、私にとってあの三人はずっと憧れで、私の学校での生活の大半は、あの三人が占めていた訳で。
 穂乃果とミューズの皆と、真姫ちゃんと、もっと大切なものが、沢山出来たけれども。
 それでも、あの三人への想いは、二年以上積み重なって、どうしたって消せない。
 こんな風に、真姫ちゃんがなってくれると言う事は、きっとヤキモチを妬いてくれているんだと思うと、もちろん嬉しいんだけれども、何だかこう、寂しかったりもする。
 何て言うか、最近真姫ちゃんはあんまりベタベタさせてくれないので、色々足りない。
 予選直前の、この段階になっても、いつもやってあげてる髪の毛のセットとお化粧、自分で出来るって言って、触らせてくれない。
 せっかく私の方は、上手く気合通りに出来たのに、こっちを見てもくれない。
 でも、何かちょっと、真姫ちゃん、様子が変?
 何か、無理やり真っ直ぐにしようとして出来なくてを繰り返している感じ。
 ああ、そんなにしたらせっかくの綺麗な赤色の髪が傷んじゃう。
 ああもう、やっぱり駄目、私がやってあげたい、一番可愛くしてあげたい。
「真姫ちゃん、大丈夫?どうしたの?」
 真姫ちゃんが色々頑張ろうとしている、手に自分の手を重ねる。
 真姫ちゃんが、少し驚いた顔でこちらを向くと、ふわりと赤い髪からいつもの香りが漂う。
 あれからずっと身に着けてくれている香水と、真姫ちゃんがいつも使っている、多分高級なシャンプーの香り。
 私がいつも嗅いでいる、真姫ちゃんだけが持つ香り。
 この香りの中で眠る幸福を、思い出してしまう。
 でも、だめだめ、今は予選開始直前、ここは真姫ちゃんの家じゃないんだから、我慢しないと。
「にこちゃん……」
 そう言って、俯くと、いつもの様に赤髪の房をその綺麗な指に絡ませる。
 憂いを含んだその瞳と一緒になって、私に誘いかける。
 ああもう、真姫ちゃんはもう、何をしていても私の心に、常にさざ波を立てる。
 隠しておかなければいけない、私の奥深くに潜んでいる想いを揺らす。
 私は、そんな揺らぎに、こう言う時、全力で抗わないといけない。
 きっと、この先もずっと。
 真姫ちゃんは、その赤髪の房を真っ直ぐにしようとするかのように撫で付けながら、呟く。
「私も、にこちゃんみたいに、可愛い髪型にしてみたい」
 それなのに、こうやって、真姫ちゃんは私の心に、もっと大きな揺らぎを起こす。
 もう、本当に、こんなにも湧き上がる衝動を、こんな場じゃなかったら、抑え切れない。
 重ねた手から、伝わって来る真姫ちゃんの体温。
 その暖かさが、心地良い。
 そっと、その手に持っているものを手に取る。
「真姫ちゃん、そう言ってくれるの嬉しいけれども、ダメよ、せっかくの癖っ毛、無理に治そうとしちゃダメ。真姫ちゃんのこの癖っ毛はね、真姫ちゃんの大切な個性、可愛い部分なの。私はね、いつだってここを活かして真姫ちゃんを可愛くしたいし、させて欲しいの。真姫ちゃんお願い、今日も私にやらせて」
 私は、その赤髪の房を整えるように櫛を通す。
 真姫ちゃんの、こんなに可愛い部分だけど、真姫ちゃんは真姫ちゃんで、色々悩んだりもしたんだろうな。
 お化粧も、私がもっと可愛く仕上げてあげないと。
 真姫ちゃんが持っている、可愛さ、綺麗さ、格好良さ、全部、私が一番引き出してあげられるんだから。
「うん、ありがとうにこちゃん。ごめんね」
 消え入りそうな真姫ちゃんの声に、力強く答えてあげる。
「大丈夫よ、お化粧もね、私が、いつだって、真姫ちゃんを一番可愛くしてあげるから、これからもずっとね」
 そう言っていつもの様に笑いかける。
「……うん」
 真姫ちゃんは少し恥ずかしそうにして、小さく笑った。

 にこちゃんが、私の隣で放心した様に、空を見ている。
 その目は何だか、切なそうで、少し寂しそうで、それを見ている私も、何だか胸を締め付けられる気がする。
「にこちゃん、大丈夫?」
 思わず、声を掛けてしまう。
 こんな時、言葉以外の何か、気の利いた何かが出来れば、良いのにと思う。
 私は、素直な気持ちで話すのが苦手だから、どうしても、言葉が足りなくなってしまう。
 きっとにこちゃんの心は今、少し寂しくて、少し哀しいのかなと思う。
 ついさっきの、私の気持ちと同じものを感じるから。
「あ、うん、大丈夫。海未も、真姫ちゃんも凄いね。私にはもっと、遠い世界の、遥か彼方にある、そんな扉だと、思ってた」
 そんなにこちゃんの呟きは、私達を照らす、空の星々に飲まれて行って、私はただ、その隣に立ち尽くす事しか、出来なかった。

次回


プロフィール

雨泉洋悠

Author:雨泉洋悠
この世は光に満ちています。

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